(このエントリは後日書いています)
今年度よりNBIコンソーシアムにて活動しているプライバシー分科会の活動一環として、シンポジウムを開催した。1月のEU保護規制、2月の米国権利章典を踏まえて、日本はどのようなアプローチを取るべきか?という問題意識があった。
このシンポジウム開催に至るまでも、法解釈の問題、何に焦点を当てるかという問題など、さまざまな論点も議論もあった。今回は、敢えて法解釈から離れて、イノベーションという観点では何が問題なのかを探ってみようというねらいだ。
私は、モデレータを務めさせていただいた。
イノベーション指向のプライバシー
http://nbi.sfc.keio.ac.jp/?p=275
登壇者:
海部美知氏 (ENOTECH Consulting 代表)※Skypeによる遠隔参加
崎村夏彦氏 (野村総合研究所・OpenID Foundation 理事長)
山口英氏 (奈良先端科学技術大学院大学教授)
生貝直人 (慶應義塾大学政策・メディア研究科特任助教)
國領二郎 (慶應義塾大学総合政策学部長)
折田明子(慶應義塾大学政策・メディア研究科特任講師)
まずは、生貝さんによるEUと米国の概観。EUは法規制重視とオプトイン、米国は自主規制重視とオプトアウトの傾向があることと、EUではまず理想を掲げて実装は後から議論するやり方だと説明があった。
続いて、パネリストによるお話。Skype参加の海部さんからは、書籍の紹介があった後に、日米欧でそれぞれプライバシーや「気持ち悪さ」の感覚が違うことを前提に、自分の情報を提供することによる利便性とのバランスの重要性について述べられた。確かに、パーソナライズされた広告と、そうでない広告では、後者はエロ広告まみれになりがちだ。
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次に、崎村さんからは、プライバシーとイノベーションの定義の整理から話が始まった。
私のもの(privatus)、コミュニティのもの(communis)、みんなのもの(publicus)
この「私のもの」への非干渉の制御権利が "the right to be let alone"、プライバシーの権利と言う。また、イノベーションは「フェーズチェンジ」。パーソナルデータが「次世代の石油」として注目される中、流通速度を速めることがイノベーションにつながると指摘した。
続いて、山口先生からは、東大の空間情報科学センターの実験の例を挙げ、他の情報とのマッチングから分かること、情報を取得する部分が適正か、得られた情報の粒度は適切かという問いが出てきた。
これらを受けて國領先生は、長い目で考える必要がありとしつつ、イノベーションという観点からはいろいろな試行錯誤をしたいし、ルールをつくるとしても実効性の担保は?と問題提起。
続いてのパネルディスカッションでは、EU規制の「忘れられる権利」について、「技術的には可能。コストを無視すれば」という意見と「コスト度外視では実現とは言わない」という意見が出た。完璧に消すか、7割消えればOKとするかでコストと実効性は変化する。消費者がどこまでを求めるか。いくらなら支払えるのか。そもそも、知ってしまったことは忘れられないのではないか、と言った観点が出てくる。
フロアからは、制度が追いつくまでのDigital self defense、イノベーションが想定外の変化をもたらすなら、プライバシーの侵害も同時にもたらすがどうするか?と言った質問が出てきた。
いわばキックオフとして、論点を出したシンポジウムになったと思う。