ペンギン日記(旧akoblog)

identityやprivacyに関心を持つ大学教員のブログ。20歳の頃から「ペンギンみたい」と言われるのでペンギン日記。

夫婦別姓を認めることが当事者だけでなく必要な理由

選択的夫婦別姓、すなわち夫婦が夫の氏・妻の氏・もしくはそれぞれの氏を保持したまま婚姻届を出せるようにする民法改正案が今国会に提出される見込みという。ただ、家族の一体感と言った価値観に関する理由や、「今やる必要はない」というもの、「夫婦として見分けがつかなくなる」「事実婚が増える」というよく分からない理由まで、いろいろな理由からの反対意見は多い。

私は、今回の法改正は、婚姻届を提出する障壁を低くする という意味で必須のものだと考えている。その理由は二つ。一つは日本が「法律婚主義」(=届によって婚姻の効力が発生する)を採っていること。むしろ、これで法改正が進まないのであれば、日本は「同姓主義」であって、それぞれの名字を保持したまま婚姻しようとする夫婦は、戸籍制度からはじきだされる。それこそが崩壊ではないか、と思う。
もう一つ民法が改正されるべき、現在検討されている税・社会保障番号の導入を前提とするならば、身分登録と現実の乖離をできるだけ小さくしておく必要があるからだ。

共通番号制、住基ネットを活用 原口総務相
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20100223ATFS2301X23022010.html

以前このブログでも「夫婦別姓法案に反対とは、社会インフラの軽視ですか?」というエントリに次のように指摘をした。例えば、事実婚夫婦は、税制上は夫婦として扱われないが、社会保障では夫婦として扱われる(年金も保険も扶養に入れる)。

これらはいわば、現状のルールに対する裏技だ。その結果、戸籍に記載される姓ではない姓を公式に用いたり、事実上婚姻関係にあり社会保障上は夫婦として扱われるのに戸籍上は他人となるなど、事実関係と登録情報がズレていく。

ただでさえ、日本には戸籍と住民票という二重の身分登録制度がある。これらの乖離を減少させ、「双方とも改姓せずに(夫婦別姓)、婚姻登録をしたい」という人たちの身分登録と実態を一致させることは、今後導入されるであろう「税・社会保障番号」など、社会インフラの下地を整える上で必須だ。

もちろん、民法が改正されたとしても、事実婚というライフスタイルと採る人は存在するし、彼ら彼女らの身分や福祉も保証されるべきなのは言うまでもない。また、旧姓を通称として使い分けることを好む人も通称使用を妨げられるべきではない。ただ、本当は婚姻届を出したいのに姓の問題だけで事実婚や改姓を届け出ない、という層に対して、婚姻届を出して身分を登録し、実態と登録された情報のずれをできるだけ減らしておくという努力は必要だろう。

年金問題」を繰り返さないためにも。

なお、民法改正に賛成する理由として、女性の権利という観点や、ライフスタイルの多様化という観点が挙げられることが多い。それについては、以下の記事が歯切れ良い。

日経ビジネス夫婦別姓」放置した自民党の怠慢 
http://business.nikkeibp.co.jp/article/world/20100222/212933/