ペンギン日記(旧akoblog)

identityやprivacyに関心を持つ大学教員のブログ。20歳の頃から「ペンギンみたい」と言われるのでペンギン日記。

ワークショップ「インターネット心理学のフロンティア」

鹿児島空港から1時間くらいバスにゆられて、鹿児島市内へ。
日本社会心理学会の大会に参加してきた。相当に大きな大会のようで緊張する。私が話題提供者として発表した「インターネット心理学のフロンティア」ワークショップについて、簡単にレポートと感想をメモしておきたい。

最初の話題提供は、高比良美詠子さん(中部大学)。「子どもとインターネット」というタイトルだった。ほとんどの子どもがインターネットを使っている現状でも、未だにこの話題では「インターネットの害悪について」という強い不信感を以って捉えらるとか。子どもに対するインターネットの影響は、同じ特徴でも「社会的に望ましいか」という観点では異なる帰結になる。

これは匿名性とまったく同じ構造だ。たとえば匿名性を理由として、ネットいじめがおこるが、いじめ相談だって成り立つ。「可能性を広げつつ危険性を避ける」という目的意識は大変同感できた。

続いて、五十嵐さん(大阪大学)「インターネット時代の社会的絆と孤独感」について。ネットを介した多層的な人間関係について、Internet Paradoxにはじまり(←これはrevisedまで出たという面白い論文です)、豊富なレビューを元に話された。ネットやケータイなど社会的な絆は多層的になっているけれど、それがかえって閉塞感を高めているのかもしれないという考察に、自分自身をふと省
みた。他人が何をしているかが見えすぎてしまう環境は、却って自分の孤独に気づいてしまうのかもしれない。

この後、私も匿名性について発表をした。匿名性という言葉が、いわゆる視覚的匿名性、本名の秘匿、識別性の欠如など多義的に用いられる状況に対して、まずは構造的に整理をした上でユーザの実態をみていこうというものだ。データの紹介がやや尻切れになってしまったが、CGMユーザは「仮名linkableな)」志向が約50%、やや「実名」志向は25%、「完全匿名(unlinkableな)」志向が25%というクラスターに分類できた。一口にネットはみんな匿名、というけれど実際は違うのだよという問題提起をしたつもりだ。

最後の話題提供者は、小林哲郎さん(国立情報学研究所)の「インターネットと地域社会」。地域社会はバーチャルに移行するのか、より豊かになるのか、衰退かという明快な問題設定。(この話は7月のPFラボでも話題になった)。CMC(オンラインコミュニケーション)が、一対一からソーシャルメディアに変わりつつあることを踏まえて、今後CGM研究には厳密な説明モデルやエンジニアリング的な視点を含め、社会制度設計への応用が必要だと締めくくられた。さながら、指定討論者のごときお話だった。

続いて指定討論者の川上善郎先生(成城大学)からは、ネットはメディア事態が変化しており、インターネットはつねにフロンティアであるというコメント、柴内康文先生(同志社大学)からは、インターネットを使っている人と使っていない人が居た頃とは違い、皆使うようになった‥という前提から、

インターネットは独立変数か、従属変数か?

という問いが投げられた。これは今後の研究に響くコメントだ。(インターネットを利用すると○○になるが独立変数、孤独な人はインターネットを‥というのが従属変数ですね)

非会員のため、自分自身は異なるアプローチでの参加だったかもしれないが、大変に刺激的だった。むしろ自分の立ち位置の相対化も考えられたような。この機会を下さった企画者の先生方に感謝です。